総評・大賞発表
第3回 JIA北海道支部建築大賞2022、総評と各賞の発表を掲載します。
▶︎ 各賞発表・各賞評
大賞/住宅部門優秀賞/一般部門優秀賞
審査委員賞(飯田賞)/審査委員賞(米田賞)/審査委員賞(高木賞)
総 評
審査委員長/飯田 善彦
現地審査を実行した11月4、5、6日の3日間は道北西部に前線が停滞したものの概ね天候に恵まれ、主に中央東西を車で走りながら見事に染まる紅葉が続く風景に見惚れつつ改めて北海道の建築家が常に目にし経験する自然環境、時には大きな拠り所となり時には大いなる試練となる厳しく豊かな環境を今までになく実感できた。
一次審査に提出された建築群はどれもがその環境に身を晒しながらも企画された目的を果たし生き永らえる戦略を身に纏っている。その文脈で言えばそこに優劣があるわけではない。では何が今回6個のプロジェクトを現地審査に導いたのか。たぶんぼくたちが見たい理由は、見えがくれする戦略が何か気になったり、その建築を構成している要素のどこかが強調されたり変質していたり、建築を生み出す仕組みの中に勇気?を感じたり、どこか横一線からひとつ顔を出しているように感じたことを確認したいからだと言える。じゃあオマエが生み出している建築はどうなんだとかオマエにそんな評価めいたことができるのか、と問われることは覚悟の上で微妙なところに臆面もなく踏み込んでいくことが審査ということになる。
現地審査は千歳から始まった。実行委員3人と共に車で浦河に向かう。日高の素晴らしく紅葉した山々や畑や牧場や小さな集落や少し大きい街々や太平洋に面する海岸を経由し最後に山に入ったところに「フレンド森のようちえん」①があった。山々を背に地形にはまり込むように建つ全体は意外と小ぶりに見える。確かに異形、一塊りというより斜めの壁が破風で一旦切れてその上に金属の凸凹する屋根が乗っている。2段構成?中に入ると45°に斜交する4本の組み柱が順々に屋根に変化する立体トラスが程よいスケールの空間を内包し、上にものびて中央部に高天井を作っている。斜めの天井にはそこかしこに光を取り込むトップライトがあってとても明るい。ちょうど昼時でたくさんの子供たちが天井の低い周辺に配されたテーブルに取り付き食事中だった。この空間は子供たちの背丈に合っている。交差する木材が作る複雑さは子供たちの多様さとリエゾンし全体がとても楽しそうに見えた。しばらく建築家の説明を受けながらこの空間を堪能したが、一方でスペースを区切るときの難しさも実感した。このシステムはそのまま拡張する分にはどこまでも美しい。ただ内部を分節する時、特に法規制他何らかの制約の中で仕切る時に途端に混乱が発生する。建築家がそこを苦心して納めているのはとてもよくわかったが、本来自由である構成がどこか足枷のように働いてしまう。ではこの方法は間違っているか、と問われればそんなことはなくおそらくそれを両立させる方法がさらにあるのではないか、と思わせる魅力はあって、少なくとも子供たちにとってこの上なく楽しい建築であることは間違いない。実際にこのシステムが外部に拡張し様々な居場所が庭に止まらず敷地も越えて街中に点在する、そんなことを夢想させる建築でもあった。
浦河を出て札幌に向かう。来た時の風景を逆にたどりながらの移動は、車窓に目をやりながらも半分内側に取り留めのない思考を生み出す。建築を見た後は特にそうだ。すでに時間超過、車中でJIAメンバーの日野さんが用意してくれたランチパックを食べるがこれがすこぶる美味しい。感謝。札幌の「O Project 」②に向かう。北側からアプローチしたせいか住宅に気がつかず最初に隣接する都市公園の見事な樹木群に圧倒された。そこだけ密に群生するさまざまな樹木がそれぞれ身に纏う金色の装いは実に素晴らしくまたその下で子供たちが思い思いに走り回りこの魅力的な公園と共にある住居という位置づけがすんなり理解できた。敷地は文字通り公園の一角にある。少し前の時代に多く建てられたフラットルーフの見慣れた外観の住宅におそらく公園に続く小さな庭があったであろうところにちょうどトラム車両一両分ほどの小さな建築がくっついている。その内部はキッチンであることはすでにわかっているがその関係性が不思議に見える。地面から浮いて土色の腰があり一層半ほどの高さにブリキの屋根がありその間に木製サッシュで分割されたガラスが巡る。屋根の上にテラスがあり手すりが見える。道路側は矩形だが反対側は多角形。既存家屋とはあっさりと接続される。さあこれは何だろう。北側角の玄関から中に入る。ほとんど改変されていない玄関から南側に向かうと順々にアーティキュレートされたレイヤーを通り抜け2段ほど高い増築されたキッチンに入ると途端に視界は一挙に公園に向かう、というより公園の中にいる。コンクリート角柱2本に支えられた細長く天井の高い空間の中央にアイランドキッチンが据えられ住宅のというより作業場のようだ。全体のプロポーション、短手左右の異なる意匠、開口部の分割とサイズ、手前に接続する天井が抑えられたダイニングスペースとの2段差の効果、よくわからないまま新しい経験を心地よく受け入れる自分がいる。さらに内側にある注意深く開口部が制御されたファミリールームを含めて分節と連続が心地よい。舞台としてのキッチンを引き立たせるための周到な配慮が見てとれる。おそらく建築家はクライアントの要望を増築という手段でかなえようとして多くのスケッチや模型で検討しこの構成に行きついたのだろう。その成果を方法論として最後は言語化すべくさまざま試みているが、この場合組み立てられた言葉はむしろウソっぽい。言葉が先導するより早く、経験する身体がとても良く反応してしまうと言ってもいい。この増築部の屋上(まだ菜園化されていない)の魅力も含め建築家が備えている身体的な感覚こそがむしろ信頼できる。最後の審査員間の議論の中で、実は建築家が言うほど公園に繋がっていないのではないか、という意見があったが、それは建築家の言葉がむしろ障害であり経験する身体はもっと素直にこの空間の魅力を楽しんでいる。この空間の発見は今回の現地審査の収穫の一つであるように思った。
「O Project 」に着くのが遅れたことで出発が日暮れになってしまった。北海道は日没が早い。「界川の家」③は丸山の南の奥、急坂を登ると界川の鬱蒼とした緑に縁取られるようにあって、道路からは白い矩形の壁と明かりに照らされた中央にぽっかり開いた木板張りの空洞が絵のように浮かび上がっていた。昼間であればこのトンネル状スペースの向こうに川沿い斜面に群生する巨木が見て取れるだろう。この住宅の特性は川側に穿たれたさまざまな開口とそれに呼応する室内空間の在り方である。天井の低い玄関から数段登るといきなり吹き抜けのダイニングに飛び込む。入るというより突然その空間にいるという感覚。振り返るとメザニンを介して奥の2階まで一挙に目に入る。天井に現れているリズミカルな梁が視線を誘導する。川側には大きな開口部。メザニンに登るとダイニングの上に吊られた畳敷きの小さな離れに気がつく。さらに上がって図書スペース、扉を開けると最奥に寝室。この前後上下の一連の流れはかなり意図的に計算されたものだろう。そこに絡む開口部のあり方やサイズ、小さく設けられた外部テラスなどの要素はこの大きな流れるような空間をよくサポートしている。ただ、あちこちに身を置きながらこの空間を移動していて妙な落ち着かなさを感じることがあった。その要因の一つは、この空間の成立に邪魔と判断された要素(例えば手すりや冷蔵庫)が排除されていること、もう一つは空間の重心が高いこと、ではないかと思う。いつも視線が外に抜ける昼間と違いたまたま夜の訪問の結果照明効果もあって空間の大きさが作りだす浮遊感のような取り止めのなさだけが残ったのかもしれない。一方で若い夫婦と2人の子供たちが審査の間も楽しそうに過ごしていたことや終わって外に出た時の森の匂いなども強く印象に残った。
その日の最後は思いがけず(お昼のランチパックを用意してくださった)日野さんの事務所で夕飯をご馳走になった。山裾の緑が迫り宙に浮いた大きなダイニングテーブルにはキッチンが組み込まれ手料理をそのままいただける贅沢。JIA北海道の最終兵器?と言われるだけあって空間も料理もきめ細やかで美味しく忘れられない夜になった。再び感謝。
2日目は、深川、富良野を経由して釧路に向かう行程。深川で高速を降りた途端急に寒くなり、敷地に着く頃には雲が立ち込め小雨模様に変わった。別棟でブリーフィングを受けたあと構内の「會澤高圧コンクリート工場」④に向かう。PC工場をPCで作る。当たり前のようでなかなかないようで構内の他の工場は鉄骨である。途中3Dプリンターで作ったトイレが置いてあってその細かな縞状の表層は若干不気味であるがこれからどんどんこの方向に向かう現実も予感させる。実際にどこかの公園で受注したという。工場に着いて正対した時予想より大きく感じた。その身に纏うPC独特のカタチもプロポーションも表層の肌合いも昔から当たり前のようにそこにあるように溶け込んでいる。内部に入り、繰り返される部材のリズムが心地よく、余分なものが排された剥き出しのコンクリートがただそこにあることの迫力に何かうれしくなる。東京の体育館で使った型枠を引き取りこのために再利用したというストーリーも消え全てがこの工場のために最初から計画したように見える。PCもGRCも最近は装飾的に扱われることが多い中、久しぶりに本来の使われ方がもたらす建築のチカラを見たように思う。
深川から富良野に向かう道筋にも実に北海道らしい風景が続く。近景、中景、遠景と絵に描いたように変化する地形に金色の木々がまとわりついている。「富良野の異形屋根」⑤は、市街からそんな林を抜けて山に向かいさらに奥の山裾に拡がる高原に広がる農地の中にあった。空気は一層冷えて細かな雪もパラついている。遠くの雲が割れて光が筋状に降り注いでいるのが見える。実に雄大、畑も広大である。その畑を前にして建築は一見とてもさりげなくずっと前からそこにあるように建っている。代々畑と共にあった生活の拠り所でありその歴史が内外の多くの痕跡として残されているであろう時間の経過と共にある住宅。二世帯住宅に改変するにあたり建築家は変形マンサード屋根が作る外型を変えず、畑に向かう正面に風除け室を兼ねた浅い階段室を実に簡素に用意し内部は外形を利用しつつ丁寧に再編集している。元々あるものに何かを付け加える、という行為は「O Project 」と同じだが付け足したものは異なる。キッチンと階段室、極めてプライヴェートな場所に対して二つの家族のためのコモンスペース、私的な衝動と計画的な思考、いろいろ比較できるが、二世帯住宅の成り立たせ方も中3階屋根裏部屋の発見も要となる階段室も計画としてとてもわかりやすい。全体に理詰めで組み立てられたこの住宅の中で唯一気になったのは階段室から突き出た2階のバルコニーだ。ここに異形が現れているのはなぜか?建築家はいろいろ模型を作る中でこの形を実現したくなった、と説明したがそれがデザインのゆらぎだとするととても面白い。このゆらぎは今後拡大するのか、あるいは押し止められるのか、依頼主の要求に耳を傾け厳しいコストも視野に知見や経験をベースに誠実に対応してきた理性から飛び出してしまった何か、がこれからも建築家を誘惑し続けるだろう。言葉では説明できない何か。自分事に引き寄せると、その衝動が起こった時ぼくはそこに身を委ねてしまう。それがたとえ考えていたコンセプトに反したり乱したりする方向であってもかまわない。そのアイデアを思いつく自分を肯定することがまだ見ぬ世界に導くきっかけなのだ。その意味で異形のバルコニーをあえて作った建築家に共感するし今後の展開にとても興味をひかれる。
その日は富良野から釧路のホテルに直行し荷物を置いたあと釧路在住のJIAの皆さんと合流し美味しい魚をいただきながら夕食会を楽しんだ。ホテルに帰る道すがらせっかくだから少し早起きして毛綱さんの反住器に寄ろうということにまとまり解散。
3日目、1時間早くホテルを出て反住器に向かう。みんな興奮して思い思い毛綱がらみの思い出やうわさや雑学を語り出す。亡くなってもう何年も経つけどやはり北海道が産んだスーパースターなのだ。住宅地をぐるぐる回り探し当て初めて対面する反住器は思いがけず大きく、晴天の朝の光の中で白く輝いていた。ちょうど第一次審査の時札幌芸森でキタコブシ賞受賞者の藤塚さんが大親友毛綱について多くのエピソードを語っていたことを思い出した。母へのプレゼントとして建てた家。住宅地に忽然と現れた立方体、およそ50年のタイムスリップ。スリット窓から覗きつつ内部を想像する。どんな生活がここにあったのか、光がどう巡るのか、雨や雪はどう見える?内側に入って見たいと思いながら残念ながら時間切れ。その後中標津に向かうが、途中幣舞中学、そして博物館に一瞬であるが立ち寄る。一見普通の分設された箱型の校舎の上、唐突に架け渡されたアーチの群。そして中央に人の顔、両側に腕を広げ迎え入れるようなシルエットが何とも言えない博物館の造形、外形の段々が衣服の襞にも見えてくる。いったい何が建築家を突き動かし強烈な意匠の数々を実現させたのか?今見ても全くわからないがなぜか実物を前にすると北海道らしい姿として見えてくる。さらに言えば北海道をスルーして宇宙とか精霊とかに向けた強くも楽しい大らかな創意も感じる。つまんない議論をいつまでもしてんじゃねえよ、と突っ込まれる感じ。建築は自由なのだ。
中標津までの道のりもいっそう美しく鹿も多く見かけた。やはり自然が圧倒的だ。「レストランフェネトレ」⑥は市街地郊外、森に接続する台地の中木々に囲まれて静かに佇んでいた。どちらかといえば小ぶり、住宅の上にレストランが重なる構成は想像しがたく普通のチャーミングな2階家に見える。四隅をコア的な壁とし残った十字形が主なスペース。その同じプランが1階では住宅寄りに2階ではレストラン寄りに無理なく自然に、質素でありながらチープに陥らず、つまり心地よくリラックスできる空間に仕立てられている。建築家の穏やかで成熟した感性と確かな技量を感じる建築である。住宅のフロアを森に向かって順に下げる心遣い、ワンルームの中で家族4人が過不足なく過ごせる多くの工夫、コンパクトでありながらメニューをこなすに十分なレストランのキッチン、近すぎず離れすぎず3組のゲストが心地よく食事を楽しむことができる客席の構成の妙、そして施主の心遣いとセンス。すぐに批評の言葉が思いつかないほど全てが丸くおさまっている。
最後にフェネトレの一角をお借りして優秀、最優秀を決める議論に入る。3日間で見学した6つの建築は、最初に書いた北海道という文脈の中で建築が置かれた現在地を測るための振れ幅をまさしく体現していた。この道中毛綱さんのポストモダン建築に遭遇したが、そのポストモダンも吸収し拡大し続ける表現世界の中でこれまでとは異なる方向でのいわばパッションの萌芽が見てとれた。①②④⑤がそれにあたる。そこにはおそらく建築家本人も言語化できていない、理としての規律から一歩出たいという欲求が可視化されている、あるいは可視化しつつあるように感じた。これは審査する側にもシンクロするものがあって賞を決める議論も多岐に渡り、結果住宅で②と⑤、非住宅で④が優秀賞として残り、最後の最優秀賞を巡って奇しくもすでにそこにある住宅を新しいプログラムの中に再編する同じような構造を持つ②と⑤の間で白熱し、最後は多数決で②の「O Project」 が最優秀賞、⑤「富良野の異形屋根」が住宅での優秀賞、④「會澤高圧コンクリート工場」が非住宅での優秀賞、その他①「フレンド森のようちえん」が飯田審査員賞、③「界川の家」が米田審査員賞、⑥「レストランフェネトレ」が高木審査員賞に決まった。
ぼくは「O Project 」を推した。住宅を改修するという命題に対し、検討する道筋は無数にある中たとえじゃあキッチンを独立させよう、と思いついたとしてその意匠、造形をあの電車のようなカタチ、2本のコンクリート柱で持ち上げるという解法に導き実現する、その創造性は一歩抜きん出ている、と率直に思った。「富良野の異形屋根」もとてもよく考えられている。計画者としての力量はむしろ上ではないか。さまざまな与条件の整理の仕方、さりげない表現、言説の的確性、そして客観的俯瞰力。ただ、前にも書いたが、2階のバルコニーが予感させる次の飛翔、何がなんでもこれを作るぞという強い創造的意志をもっと見てみたい。計画を重ねて作る方法を越えて建築家がその根底に必ずたぎらせている毛綱的衝動の発揮を期待したいと思った。
全てが終わってやはりここで書いたようなことを自分に向けて問い直している。最後に、いつもながら、負けないで作るぞ、と気合を入れ直してくれる経験をさせてくれたJIA北海道の皆さん、とりわけ実行委員会のメンバー、そして日野さんに感謝したい。
審査委員/米田 浩志
今年、第3回目を迎えるJIA北海道建築大賞は、22作品の応募があった。10月8日に公開審査が行われ、6作品が現地審査対象作品として選出された。応募作品は、それぞれ固有のテーマを掲げ、それぞれに強い印象を残す作品であった。審査は、建築の総合的な完成度を指標にすることは言うまでもないが、この段階ではパネルやスライドによる作品解説の説得力が重要な要素になってくる。その後、6作品を対象に、11月4日〜6日の3日間の中で現地審査を行なった。6作品の立地する環境を体感しながら建築の審査を行なった。現地審査においては、建築説明のパネルやスライドからは把握できない実の空間性を体験することができた。また、各作品における様々な与条件との関係性も再認識することができた。このようなプロセスから、最終的に建築大賞作品1点と優秀賞作品2点、そして審査委員賞作品3点が選出された
この建築賞は、北海道という枠組み、つまり北海道の風土性に対する解釈度が重要な着眼点になる。その解釈度を理解する上で、やはり現地審査は必要不可欠な目的性を持つ。今回、各作品の審査によって改めて北海道の広さと、その場所の多様性を認識する機会にもなった。同じような前提条件でも、同じ結果に至らないのが建築作品である。そのことを実感する機会でもあった。
最後に、公開審査や現地審査を行うにあたり、支部長をはじめ実行委員の皆様、そして関係者の皆様には惜しみない協力をしていただいた。この場を借りて改めて感謝を申し上げたい。
審査委員/高木 伸哉
風土を前提に評する必要もないのだが、やはり印象に残ったのは北海道という環境への応答の仕方。それは特に住宅で顕著だった。外と繋がりを持つため開く方法として、建築の外皮を操作するさまざまな試みがみられた。外皮を多重化し、いくつかのレイヤーを通じて外と繋がる典型例が〈富良野の住宅〉、レイヤーを外に置いたのが〈河畔の家〉。〈公園横の開口〉は本来一番内側にあるはずのカーテンを最も外に置いた逆の発想が新鮮だった。外皮の厚みに居場所をつくったのが〈界川の家〉。外部との繋がりを増築に求めたのが〈O project〉。内外の繋がりを視線に限定したのが〈一枚屋根の森のすみか〉。外部環境を中庭として取込んだのが〈リドコト〉だ。自然光をすべて明障子を通じて採り入れているのが〈平和の家〉。また環境への応答よりも、フレキシビリティの高いプランニングに興味を持てたのが〈室蘭の半居〉。住みこなしの余白が最も大きい例で、暮らし方の広がりを感じた。
一般部門では、幼稚園が3例応募され、現代の子育てテーマの重要性を感じた。〈浦河フレンド森の幼稚園〉は斜材に園児がよじ登る風景が面白く、構造体を遊具として使いこなす人と建築の密接な関係が実現された。〈札幌創価幼稚園〉は広場を室内化して冬期にそなえ、〈こころ篠路幼稚園〉には光と風を採り入れる工夫がある。地域性が建築の動機に繋がっているのだが、それが断面計画に色濃く表れたのが〈ニセコ町役場庁舎〉だ。豪雪への対応と眺望に配慮された。〈ニセコ花園リゾート〉〈標津サーモンプラザ〉も地域のランドマークになるだろう。現代的な木造テーマも注目すべきで、〈北の森づくり専門学校〉〈浦河教会〉〈ザロイヤルパークキャンバス札幌大通公園〉はそれぞれ別の木材利用活性化の道を示していた。環境技術が集約されていたのが〈エネフィス北海道〉。そして住宅案同様外部と繋がりをもちながら、しかし内部では異世界が構築されている〈天真〉のユニークさにも注目したい。
各賞発表・各賞評
大賞「O project」
▶︎ 宮城島 崇人/(株)宮城島崇人建築設計事務所
建築の質を保証するものとして予め準備する方針(コンセプト)とそれに伴う実態との整合性は言うまでもないが、同時に建築固有の論理も重要な評価の視点になる。つまり、自律した表現性の有無である。今回大賞を受賞した「O project」も他の作品と同様、事前に準備されたテキストを参照しながら現地審査を行なった。現地ではコンセプトとの整合性を確認し、同時に建築固有の表現である各エレメンツの納まりやスケールの操作、そして素材とテクスチャの扱い方を体感した。この作品は、事前に準備されたテキストの説得力以上に自律した建築表現の強度が印象深かった。内部においては、既存の建築から増築した空間に至る境界部分に心地よい額縁状の開口が配置されていた。その額縁の存在は、日常と非日常を静かに接続し、増築部分をあたかも生活における舞台のように設えていた。また、増築部分の大きな窓からは公園の紅葉の風景が建築内部にダイナミックに流入していた。今後、増築部分が機能するかどうかは、生活者に関わることではあるが、仮にプログラム通りアクティビティが機能したなら外部との関係がより有機的になるに違いない。その時は、まさに公園側からの増築になる建築である。小さな作品ながらも極めて完成度の高い建築であった。
審査委員/米田 浩志
既存の2×4住宅の増築改修プロジェクト。食を仕事にする建主でキッチンが増築されたが、その向こうは隣接する公園。既存の躯体は閉鎖的なので、増築部を開放的にデザインすることで既存住宅に公園の自然環境を採り込もうという考えだ。しかしその方法はよくあるサンルームと全く異なる。むしろ庭に建てる離れを母屋に密着するほど近づけたつくり。増築部は構造も意匠も全く独立して、離れのままなのだ。それが顕著なのは、床スラブを既存住宅床から400ミリ強上げていること。それは視線などを考慮する増築部だけの理屈から来ている。ここでは接着した離れという方法が生み出すさまざまな良さが発見され、評価に繋がっていた。最も印象的なのが、既存部ダイニングから見た増築部キッチンの風景。まるでプロセニアムに切り取られたステージの上にキッチンがあり、料理人の舞台のよう。あるいはダイニングの天井が深い軒のように背景の樹木を美しく切り取る。増築部の開放感は当然だが、既存部がこれほど豊かになることは写真で気づかなかった点だ。両者は成り立ちが全く違うにもかかわらず、一体的に調和しているのだ。既存・増築のとりあい部の豊かさは、同じことが屋上でも見られる。増築部で想定されている菜園の床は、既存部の近くでベンチになり、テーブルになるだろう。使い方のイメージは膨らんでゆく。ただ設計主旨で説明されたほど、増築部と公園の相互関係はまだイメージできなかったが。このプロジェクトは、増築部を接続するだけで、既存部分も魅力を増す(姿やプランを変えなくても)という、リノベーション手法のひとつの典型になるだろう。
審査委員/高木 伸哉
住宅部門優秀賞
富良野の異形屋根
▶︎ 高木 貴間/高木貴間建築設計事務所
「富良野の異形屋根」は、広大な農村風景の中で生活者の拠り所として存在している。この建築を俯瞰的に見ると点としての存在ではあるが、遠くから見ると点から波紋のような拡がりを生み出している。この点としての建築は、農村風景において形や色、そして素材を介在させながら象徴的な記号になる。家の形のイメージは、屋根の形状によって決定すると言える。60年代以降広まった北海道の異形屋根は、三角屋根のように強い形式ではないものの、ある意味不定形であるが故に周囲との関係を形成してきた。今回この作品は、その不定形さに着目しながら土地と新たな関係を作り上げている。また、異形屋根を際立たせているファサードには、透明なポリカーボネイトを付加させ、農村風景に点在しているビニールハウスと素材の重層関係をも作り出している。さらに内部においては、外部的な土間の配置によって、外部と内部とは異なる新たな空間が再構築されている。この土間空間は、いわゆる風除室を拡張し、親世帯の1階と子世帯の2階を結び付け、特に雪景色が拡がる冬には、必要不可欠なアクティビティ空間として機能している。北海道の風景の記憶が生活者(建築家)の実体験によって外延化された秀逸な作品であった。
審査委員/米田 浩志
二階建て農家住宅を二世帯にリノベーションするプロジェクト。その際ふたつの課題があった。ひとつは床面積が不足すること。もうひとつは目の前の、長年暮らしを支え大切にしてきた畑に開くこと。北海道の環境に適応した開き方は?しかもローコストで。このふたつの課題を一度に解決しているのが、半屋外空間の増築だ。ここに上下世帯を繋ぐ階段と土間を配置して、もとの動線を居室に充てることができた。プランは大きく変えられ、既存部の畑側は開放。そのときもう1層半屋外を加えることで、外部環境とのバッファとなる。いくつもの襞を通じて季節を問わず1日中感じていられる畑の風景は、独特で新鮮だ。環境との境界で多重のレイヤーをつくることは、寒冷地における環境と応答する手段のひとつで、ここにさまざまな知が注がれている。この住宅は、地域の暮らし方と風景を変えるマスターピースになるだろう。その環境装置がファサードを覆い、建物の顔となっているのが象徴的だ。夕景にほの光るであろう光景もぜひ見てみたかった。そしてこの増築部は、奥行きのスケールで空間の性質が変ってくる。小さいとただの風除室だが、深いと居場所になる。ここではそのギリギリのスケールは担保されていた。
審査委員/高木 伸哉
一般部門優秀賞
會澤高圧コンクリート株式会社深川工場
▶︎ 圓山 彬雄/(株)アーブ建築研究所
単一の機能性を印象付ける工場は、アクティビティへの拡がりに直結しないのが一般的な捉え方である。とは言え、工場の特性である大きな容積や開放感は、さまざまな利用方法の可能性を秘めている。例えば、展示スペースやイベントスペース、あるいは体育館、さらには非常時の避難施設として利用が可能であろう。工場は想像以上に転用性を有しているのではないだろうか。そのようなことを再考させられたのが「會澤高圧コンクリート株式会社深川工場」であった。この作品を体感することによって、さまざまなアクティビティの可能性が喚起された。その理由には、独特の曲線を有したPC材のシェイプや接続部分のディテールによって有機的なイメージが表現されていたことにある。このような建築的操作によって内部空間には想像以上の豊かさが生み出されていた。さらには、PC用の鋼製型枠を再利用することによって部材の再生産が可能となり、この構造システムの一般化と環境負荷への低減にもつながる。工場というある意味無機的で寒々しいイメージを持つ機能に対して、この作品は一般的な概念を覆す建築の可能性が提示されていた。工場利用とは異なる風景を、この空間で体験してみたいと想像させられる作品であった。
審査委員/米田 浩志
PC部材を製造する工場自体を、PCでつくるプロジェクト。内観の第一印象は、世紀末の鋳鉄造工場を思わせる重厚かつリズミカルな迫力。土木のPC構造と違って、繊細さも感じた。現代の高性能PC技術があればこそ生まれる構造美がここにある。これからもっと建築でPCが使われてもいいと思わせる事例だ。その建築PC造の広がりに現実味を感じるポイントのひとつが、今回の型枠流用だ。先行別プロジェクトであった体育館PC造に使われた型枠が再利用され、その体育館と同形のPCが工場に使われた。スパンと高さが継ぎ増しされてスケールの違いはあるが。型枠の再利用にあたっては、強度を増す必要があるなど課題はあるものの、その可能性は注目すべきで、私たちの架構の選択肢がもうひとつ増えるかもしれない。また、ここではPC門型架構のデザインの可能性も感じることができた。架構の連続を拡張することによる増築や、スパン間の仕様の自由度、PC部材接合部のディテールなどで、さまざまなアイディアが生まれてきそうだ。
審査委員/高木 伸哉
審査委員賞(飯田賞)
浦河フレンド森のようちえん
▶︎ 照井 康穂/(株)照井康穂建築設計事務所
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審査委員長/飯田善彦
審査委員賞(米田賞)
界川の家
▶︎ 堀部 太/堀部太建築設計事務所
住宅地と自然の境界域に建つ住宅である。一方は、人々の生活が密集した風景、もう一方は人の手が加わっていない自然の風景、その間を結ぶように直方体状の箱(家)が置かれている。内部は、箱状の輪郭が認識できるようなワンボックス的な一室空間である。自然の領域側には大きな開口部と多様な大きさの開口部が設置され、十分に自然の美しさを享受できる空間である。自然の絶大なる存在力なのか、開口部という限定された枠組みではあるが、想像以上に自然現象のダイナミズムを体験することができる。このような外部と内部の関係は、北海道の風土特性を踏まえた上での建築形式と言える。北海道の自然の強い実存感、特に冬の季節は、自然性(外部的イメージ)が開口部から流入してくる錯覚感がある。そのような現象(印象)を前提にすると、内部空間には擬似的な外部性が形成されるとも解釈できる。「界川の家」においては、その空間特性が表出化されていた。生活者たちは、この外部性を有した内部空間と共振しながら、さまざまなアクティビティを生み出しいくことに違いない。その余地と可能性を与えているのがこの作品の魅力であった。北海道の建築形式の一つとして評価できる作品である。
審査委員/米田 浩志
審査委員賞(高木賞)
レストラン フェネトレ
▶︎ 赤坂 真一郎・佐野 光 /(株)アカサカシンイチロウアトリエ
豊かな自然に満ちた森の中の、レストラン兼住宅のプロジェクト。レストランが2階に、住宅を路面の1階に配置され、商業施設としては稀なゾーニングだが、それは環境と営業スタイルに理由があった。この建物は樹木に近い。その緑を提供するなら2階だ。また屋外テラス席への拡張を想定しなかったこともある。そしてレストランは完全予約制。道路から離れた森の中で、客足を捕まえる必要はない。とは言っても、子どもがいる1階の生活との動線の混乱は懸念されたが、それこそがこの建築のユニークなところだと感じた。入口はレストランと住宅で兼用されている。その直前がガラス壁で、住宅内を全部見通せてしまうのだ。1階は地形に応じて入口から奥へと徐々にレベルが下がってゆき、つきあたりの開口部で森へ通じている。入口からの視線は向こうの森まで抜けてゆく。もちろん営業中はスクリーンで閉めている。しかし、客を家族ぐるみで迎えられる可能性を秘めているのがこの建築だ。それはレストランの姿勢と合っている気がして、客商売と暮らしの新しい関係を感じた。2階で夫婦が客をもてなす気配を、1階の子どもが感じながら過ごす生活がある。十字型のプランは客席相互の距離感を絶妙に演出するスケールでできている。全体感がありながら個別の領域が担保されているのだ。その構成が住宅で共用できる発見も面白い。2階開口部の風景の切取り方、インテリアのディテールや配色も美しい。
審査委員/高木 伸哉