再見「ロングランエッセイ」の+と-

38:「 広葉樹 」  住宅雑誌リプラン53号(2001年7月1日)より一部転載

去年※の暮れにでき上がった家で、ようやく庭づくりが始まった。北海道でも南の面は思った以上に暑くなり、夏には冷房が欲しくなる。
 南面がほとんどガラス張りのこの家には、陽が当たらないように、大きなミズナラの樹を植えることにした。夏には、この樹の木陰を抜ける涼やかな風を楽しめると思う。
 夏、邪魔だった陽の光は、冬になると反対にその温かさを暖房に使える。なかでも、しっかりと断熱をした蓄熱量の多い家では、太陽が出ると暖房器を止めるくらいになる。夏は葉を茂らせて陽射しを防ぎ、冷房を止めさせ、冬には葉を落として暖房を止めさせる広葉樹は、北海道の庭に植える木としては、最もふさわしい。
 といっても、晩秋の風の強い日に降り積もる落ち葉の量は、凄いが、その厄介者の落ち葉は、造園屋で売っている「腐葉土」の原料であり、環境に優しい天然肥料の代表でさえある。
 公園の樹木からの落ち葉が、舞い込むので枝を払えといわれ、街路樹のように、幹だけの寂しい姿に刈り上げたというのは、あまりにも哀しい。

+:屋久島の杉を見てきたと言っても、世界遺産の森の五十分の見学コースを歩いただけなので、噂の縄文杉を見たわけではない。屋久島の杉材を製材、加工している人の工場を見に行った。案内によると、屋久島に生えている杉のすべてを「屋久杉」と呼ぶことはない。栄養のない花崗岩にしがみつくようにして、少しずつ成長したものは、木目も詰まっているので、頑丈で、降雨量も多く樹脂分も多く、腐り難いので、樹齢千年以上のものを「屋久杉」と呼び、千年以内のものは、「小杉」と呼ぶという。ほぼ百年前から国有林の屋久杉伐採が始められたが、二十年ほど前に、国有林の伐採可能の天然の屋久杉が、すっかり無くなり、伐採も終了したので「小杉も無い。」という。これと別に、島の杉から得られた苗木を育てたものは「地杉」と呼ばれて、建築資材などに使われるが、木目の幅も広く、やわらかいため屋久杉とは呼ばず、「屋久地杉」と呼ばれるが、やはり脂分が多くて重い。この性質を利用して、屋外のテラスや、ポーチや車庫に用いることも多いようだ。入梅していたのに、雨にも当たらず、陽も射したのは、ずいぶん幸運だった。