再見「ロングランエッセイ」の+と-
36:「 青島 」 住宅雑誌リプラン51号(2001年1月1日)より一部転載
港から離れた丘陵地に広がる旧市街地は、中国というより、欧州の街に似ている。道には石畳が敷かれ、街路樹のマロニエは道にかぶさる。かつてドイツが青島を、1898年から第一次大戦までの間、統治した時に保養地として利用していたものの名残であるという。
ここ青島では、心地よい街のたたずまいを遺そうと、建物にも赤い瓦屋根を持つように指導しているという。五階建ての白くて真四角な、近代的な集合住宅の屋根にも、赤い瓦が載せられている。小高い展望台に上がって見ると、濃い緑のなかに赤い屋根が点在していて、まるで南欧の風景のようにも見える。
景観的財産を遺して活かそうとすることが、青島で出来て、函館では出来ない。青島で出来て、札幌で出来ない。中国と日本の政治体制の違いによるところも大きいが、そればかりでなく、もっと基本的な、倫理的な問題であるような気がする。
+:伊豆の長八美術館の設計で著名な建築家石山修武さんが、西伊豆の松崎町長依田敬一さんから「海沿いの岩地集落百五十軒の屋根をすべて、黄金に塗って、東洋のコートダジュールになるようにしたい。」と言われたという。羽田から四国に向かう飛行機から、しっかり松崎町を認識させようという魂胆らしかった。さすがに黄金は無理で、渋めのウコンの塗料を町から支給して、屋根を塗った写真を見た。小さな湾に沿った、海辺の集落らしさは感じられたが、一度や二度だけ軽く塗ったのでは、すぐ錆も出てしまい、沈んだ色になった。長持ちさせるには、塗装ではなく、青島の瓦のように、素材の持つ本来の色を使うべきである。
しかし、近ごろは、Google検索で、なんでも見つけることができるので、こんな所に、なんと突然「ポツンとコートダジュール」と評判になったに違いない。