再見「ロングランエッセイ」の+と-
30:「 笑顔 」 住宅雑誌リプラン45号(1999年7月1日)より一部転載
コンクリートブロックの家が出来上がり、現場で苦労した人たちが、新しい家に招かれた。
室内にむき出しになっているコンクリートブロックがブロックと思われないほど、端正に積み上がっていることが話題になった。いつもきれいに積む二人組の職人さんだが、「一段ときれいだ」「さすが、北海道一番だ」などと皆がおだてあげた。酔いが回ったせいもあって、そのわけを話した。毎朝、娘さんを玄関の外まで送りに出る奥さんが、かならず、「お早うございます。いつもご苦労さまです」と優しい笑顔で、にっこり挨拶されるのが嬉しくて、「そのうち、その笑顔にあうのが、楽しみになってさ、いっつも、早くに来たさ。そのおかげで丁寧な仕事が、できたのかもしんね」という。
「仕上がり良くするには、”笑顔”があれば良いんだ。」「これから”笑顔”だけで頼むよ。」「いや、いやそりゃーやっぱし、ヒトによるわな」などと酒の肴にされてしまったが、家を造るのには、良いものを造ろうという気持ちが関わってくるので、頼む側にも、謙虚に造ってもらうという姿勢や優しい笑顔が、欠かせないのです。
+:この家も建ててから二十四年目に入っているが、主人は、十五年ほど前に亡くなられた。設計の打ち合わせに同席されていたが、ほとんど発言することなく、なるほどそんなもんですか?という風情で座っていられた。私の設計期間は、半年ほどだが、ほとんど意見を述べなかったので、家には、あまり関心がないのかもしれない。夫人がよろこぶことを一番に。と考えられていると思っていた。
定年退職された後は、いくつかでお手伝いをされていたが、体調を崩され入院された。しかし、一時退院され、家に戻られていたけれど、間もなく亡くなられてしまった。お悔やみを申し上げた時に、夫人が「出来るだけ、あの家で過ごしたい。と云われて、一時帰宅したのです。」と言われた。ずっと黙って打ち合わせを見ていた主人が、この家を気に入ってくれて、心落ち着く我が家として戻りたいと言ってくれたに違いないと思って、大層嬉しかったものである。