再見「ロングランエッセイ」の+と-
29:「 ハイリスク・ハイリターン 」 住宅雑誌リプラン44号(1999年4月1日)より一部転載
北海道の人は、新しいもの好きだ、といわれる。新商品の売れ行きを探るために、全国に先駆けて、テスト販売をするという。そういうわたしも新しいものに目が無い。厚さが六ミリほどのペア硝子があるといわれれば、使ってみたいし、ポリカーボネイトで、ペア硝子と同じ性能のものがあるといえば、すぐ使ってみたいとか思ってしまう。
六ミリの厚さのペア硝子と断熱性能の良いポリカーボネイトに挟まれた、吹き抜けの土間空間を造ることができた。雪の一段と多かった今年の冬の寒さには、充分に快適で、ハイリターンであった。西に向いたガラス張りの土間空間の夏は、これからである。さまざまな手立てを周到に準備しているとはいえ、暑い夏をうまく過ごせるか、正直いうと少し不安もある。
新しい素材に挑戦する時には、いつもリスクがついてまわる覚悟が必要である。お金儲けは、ハイリスク・ハイリターンといわれるが、住宅造りでは、ノーリスク・ハイリターンが、理想である。
まずは、ローリスク・ハイリターンの新しい技術的挑戦こそが、寒さの厳しい北国の新しい暮らしと空間を創造するに違いない。
+:22年前にローリスク・ハイリターンを目指して、新しい技術を用いて造った家を久しぶりに訪ねた。西面に造った玄関は、十二畳位の広さもあって、二階まで吹き抜けになっている。庭側の窓は、天井まで真空ペアガラスで、内側も、一、二階共ポリカーボの引き戸で、風除室になっている。ニ階の居間に向かう階段も、風除室にある。この大きな玄関は、北国の冬の光と熱を貯めようと造った家が、20年以上経った今も、十分機能しているといわれ、安堵すると同時に確信することができた。
器用で大工心のある主人が、鉄部の塗装や棚板付けや洋酒棚の扉なども手際よく作っていた。風呂場のタイルも挑戦していたが、さすがに難しかったようだった。背の高いポリカーボの引き戸の扱いなど、いくつか検討することになった。退職されたせいもあって、この家を気に入って、こまめに手入れをしてくれるのが、ありがたいし、嬉しい。ますます、自分達の独自の家に仕上がっていくに違いない。