再見「ロングランエッセイ」の+と-

24:「 聖ミカエル協会 」  住宅雑誌リプラン39号(1998年1月1日)より一部転載

日本の近代建築の発展に貢献した米国の建築家の作品が札幌にある。アメリカの有名な建築家フランク・ロイド・ライトの弟子でアントニン・レイモンドの設計した聖ミカエル教会である。
信者の寄付によって建てられる建物のため、十分な予算があるわけではないが、当時使われていた素材の良さを活かし、優れた建築に造り上げられている。瓦棒の鉄板屋根、手作りの木製の開口部、煉瓦積みの外壁、モルタルの床、内部のベニヤの壁とどれを取っても高価なものは無い。
「簡単、便利。気持ち良い」生活を手に入れた今の建築に無い、いさぎよい美しさがある。このいさぎよい美しさは、ものによって生まれるものではなく、造る人の心のいさぎよさから生まれたにちがいない。
この教会のステンドグラスは、障子紙を硝子に貼っただけであるが、丸太の小屋組とベニヤやモルタルの床という廉価な素材のなかで、爽やかな魅力を放っている。このように廉価な素材によって造り上げられた、美しい空間に居ると、高価な素材を使うことが、罪にさえ思える。建築の原点に戻って、素材の持つ良さを見極める力と使いこなす才能を問われる時になった。

+:これを設計したアントニン・レイモンドは、フランク・ライトと共に来日し、1935年に軽井沢に小さな礼拝堂を建てる。太平洋戦争の間アメリカに戻るが、1947年に再来日しリーダーズダイジェスト社屋などを設計し、日本の近代的な建築を先導するなか1960年札幌に聖ミカエル教会を建てる。
昨年、これより6年後にレイモンドが、新潟県新発田市に建てた新発田カトリック教会を見た。聖ミカエル協会は、プリミテイヴな優しい感じであるが、新発田の信者の力が大きかったせいか、中央に塔を持ち、四方に切妻の屋根が載る大仰な姿なので、他の石造風なカトリックらしい教会の流れを感じた。煉瓦積みの壁、木軸の構造を見せ方、硝子に障子紙を貼るなどの聖ミカエルでの手法を使ってはいるが、ちょっと金持ちっぽいところが気に入らない。軽井沢に建てた質素な教会の系譜としては、聖ミカエル教会が頂点に違いない。と思った。
札幌の建築家上遠野徹が、聖ミカエル教会の工事現場を担当したという理由だけでなく、誰もがそう思うに違いない。