再見「ロングランエッセイ」の+と-
23:「 ガーデニング 」 住宅雑誌リプラン38号(1997年10月1日)より一部転載
標茶町の虹別に小さな堰があり、そこから流れ出る水が川底に繁茂している水草を揺るがせ、見るだけで涼しさと爽やかさが体に溢れる。湧き水を集めて流れ出た水が、川となって遙かな海に出て、雲となって山に降り、地面にしみて再び湧き水となって還ってくる。
水の流れを良くするために川をまっすぐにコンクリートで護岸してきたが、自然の土や石を使って、ゆるやかな流れを感じさせる曲線の岸辺を作るようになってきた。岸辺で藻や草が育ち、小さな魚や昆虫が住み、食物連鎖が生まれ、自然の営みを回復させている。いくつかの町で蛍を育成させるほどきれいな川にしようとしているが、楽しみである。
家の回りには、どんな水たまりも許さず、どんな虫もよせつけないか、虫の付く樹は植えない。落ち葉の掃除が大変だから、針葉樹が良い、という人も多い。しかし枯れ葉には地中の毒を中和させる力があり、土地の浄化にもなることが分かってきている。それぞれの庭も小さな動植物の生息を促しながら、自然の循環を大事にすることが必要になってきた。
蠅も蛾も徹底的に排除して人畜無害にしたディズニーランドを造るような真似から、自然そのままの、蟻やキリギリスのいるイギリスのガーデニングにしたいものである。
+:少し余裕のある庭を持つ人は、周りに溶け込むようなイングリッシュガーデンにしたいという人も多い。北海道の気候から考えてたら、当然の気もするが、イギリスのテレビで見る、イングリッシュガーデンコンテストに応募した庭を造った人や審査する人たちの真剣さは、並大抵ではない。理由の一つに、家の売り値にあるように思える。
イギリスの暮らしに詳しい井形慶子氏によるとイギリスの退職者は「これからが本当の人生である。」といい、お気に入りの田舎に引っ越すことを考え、退職前から田舎をめぐり、そのまわりに住む人とその村の暮らし方ぶりを確かめる。イギリスでは、新築がほとんど無いせいもあり、その家での住み方を見たい人も多く、何度も、見にくるという。
つまり、「家も庭もきれいで、まわりの人も良く、村の雰囲気も良い」と思われなければ買ってもらえない。だから村として、イメージアップに取り組んでいるところもあるという。
住んでいる家が、自分達だけでなく、村の財産になって、村全体が、優しい「終の住処」のイメージを造る自信があるに違いない。
イングリッシュガーデンより、その家に住む人たちの自信のほうが、うらやましい。