再見「ロングランエッセイ」の+と-

8:「  薪  」  住宅雑誌リプラン23号(平成6年1月1日)より一部転載

いつも秋口になると、薪の確保の心配と薪割り仕事が大変だ、と愚痴を言う大阪の施主がいる。北海道の住まいのように、断熱性が良くて年中安定した室内環境を保つ住まいが欲しいというので、ブロックを二重に積んで住まいを造った。そのため、小さな薪ストーブ一つで家中が暖まる家にはなったが、薪を用意しないと冬を越せなくなったのである。
奈良県近くの材木屋が、「今どき、薪を炊いて暖をとるとは珍しい」と同情半分で協力してくれたらしい。もともと炭用に造った、楢~ナラ~の木を分けてくれたらしいが、困ったことに小さなストーブには1尺の薪しか入らない。しかたなく今年は自分で切るが、来年からは特別に1尺のものを造ってくれるそうだと、すっかり喜んでいる。
2tトラックで薪を取りに行ったら、材木屋さんの裏山は桧~ヒノキ~の林だったという。そこの樹を使って、代々自分たちの家を建て替えてきたのだという。とりわけ立派な桧を指して「子供の代に造る時の大黒柱にはこの樹を使う。孫の代に造る時の大黒柱には、こっちの桧がいいだろう。その先は、わからねぇ…」と言われて、樹を相手に暮らす人の考える時間の長さぶりに驚いたという。
ものを造るときには、もっと長い時間を見据えて造らなければいけないと反省させられる。多くの人はせっかちで機を見るに敏すぎて、わずか1~2年の不景気や米不足で右往左往して、とても遠くを見る暇がない。今こそ樹を育てる人のように、長い時間を見据えて、次の世代のときに大黒柱になるような、人や建築や街を育てていく勇気がいるように思える。

:大阪の施主に、薪の件を聞いた。
『お陰様で薪ストーブは32年間メイン暖房器具です!現在のストーブは2代目のイタリア製です。
薪の供給は、奈良県北部の山添村の森林組合に紹介された炭焼用の楢材を出荷している林業の農家の方に、ストーブ用に特注サイズにカットしていただいて、私がトラックで毎年引き取りに行っていました。
この農家の方がピンピンコロリで亡くなられてから、その方の近隣の農家を紹介していただいて毎シーズン送っていただいたのですが、なんせ林業農家の方々は80才代中盤から後半のご高齢ですので、概ね10年でまた別の農家にお願いすることでしのいでいました。
さすがに3代目の農家の方が、「わしも引退するけど紹介できる農家はないわ」となって昨年から長野県のリンゴ農家が、伐採した古木をお送りいただいています。これはビジネスにされているので、継続性はありますがコスト高です。
そんなこんなで林業の現実を、素肌で感じながらの大阪での、薪ストーブ物語です。』