再見「ロングランエッセイ」の+と-
62:「 ルイジアナ美術館の椅子 」 住宅雑誌リプラン77号(2007年7月1日)より一部転載
六年ぶりに、家具を見にコペンハーゲンを訪れた。北海道と同じ気候で少し肌寒かったが、相変わらず温かい感じのデザインが多かった。四十年も前にショウウィンドウで見たものが、今でも店に並んでいるし、モダンデザインの中古家具だけのショップもあり、名品といわれる家具も並んでいた。
北欧には、家具に対する深いこだわりがあって、一度買ったものを大事に使うから、十分に吟味すれば、高くとも良いものを買うという覚悟がある。そこに、長く使い続けられる良いデザインの生まれる素地があるように思えたが、家具の店が休みだったので、代わりに、ルイジアナ美術館を訪れた。
寄り付きは、古い一軒の住宅のように見えるが、敷地内に入るとバルト海に面した広い緑の中に、低い建物が広がっている。芝生の上や、林や広場の中などに置かれた彫刻と一体となった外の空間が魅力的で、くつろぐところが多く、一日居ても楽しい美術館である。芸術家・デビュフェの作品を望むコーナーも、「うち」と「そと」のつながったさわやかな空間になっている。さらに、これもまた五十年も前の名品と呼ばれる椅子とテーブルが、「ここには、これを置くしかない」という関係で置かれていた。
+: 日本にも、ゆったりとした時間の流れを感じられる彫刻美術館・アルテピアッツァ美唄がある。三十年前から、イタリア在住の彫刻家安田侃が、ふるさと美唄のために多くの作品を運び、美術館の全体構想から、彫刻一つ一つの据え付けにまで立ち合いながら、位置と向きを決めて、作り上げてきたので、ずいぶんと成熟してきた。彫刻と彫刻、彫刻と丘、彫刻と森、彫刻と古い木造校舎、彫刻と新しく設けた川などのバランスに配慮しながら、丁寧に創り上げたので、アルテピアッツァ美唄全体に、安田侃のやわらかで、ゆたかな心が感じられる。
なかでも私が最も気に入っているのは、大きな木の下に置いてある黒い鉄の椅子である。大きな木に寄り添って、きれいな芝生の広がりのなかに、白い彫刻や川や池がくっきり浮かぶのを眺めるていると呼吸がゆっくりになる気がする。椅子に座って眺めていると、風景との関係に心を込めて、彫刻の位置を決めた意図が伝わってきて、ここで見てくれよ!と安田侃さんに、言われたようにさえ思える。喧騒の街に住む人には、是非行ってほしいと思う。