再見「ロングランエッセイ」の+と-

61:「 冬の簾 」  住宅雑誌リプラン76号(2007年4月1日)より一部転載

 雪の金沢は美しいというので、この二月に金沢で会議を持った。今年は暖冬のせいで北陸の温泉場も雪がなかった。しかし、その晩たっぷりの雪が降ってくれた。朝にはやわらかな新雪がふんわりと木々をおおって、北海道とはひと味違った優しい雰囲気の「うっすらと薄化粧をした」という風情で、どきどきするようだった。
 数年前に十五年ほど経つマンションを塗り壁や紙障子を使って、和風にしつらえ直したことがある。久しぶりに訪れたら、ベランダに立派な灯篭が立っていた。さらにその外側に細い丸柱が五本立っていた。強い西日を避けるための簾を下げる目的でつくったという。札幌も雪の気配であったが、写真を撮ることにしたら、それまで間の抜けたように立っていた灯篭が、簾をバックに見得を切るように見えた。
 「よーっ、灯篭!」という感じである。ベランダから見える周辺の景色がかすんだせいでもあるが、窓の外側にもうひとつの濃密な空間が生まれたせいである。わずかに雪をかぶった灯篭は、金沢の新雪が降ったあとの風情を思い出させてくれた。
 住みはじめてから、少しずつ自分の好みを活かして手を加えていくと、その人の人柄がにじみでて、その人らしい住まいになる。
 住まいも住んでからが勝負なのです。
 

+: 「住宅は住んでからが、勝負だ。」と言ったが、「車も乗り始めてからが、勝負だ。」と思っている。私もイギリス生まれの角張ったワゴン車に乗っている。ずいぶん前に中古車を買ったが、長持ちせずにエンジンとシャーシがダメになって、中古を探してもらった。仰々しい内装だったので、エンジンやシャーシの上に、前の車のボデイを乗せてもらって使っていた。その車を車検に出したら、取り換える部品を探すのに手間取って、半年程して戻ってきたが、いつものクルマ屋さんには「次の車検が取れるといいね!」と言われてしまった。角張った形で、運転席が高く、後部座席が少し高いところが気に入ってるので、「次も車検を取りたい!」と頼んだが、はっきりした答えをもらえ無かったが、この車に対する愛着心は、いっそう深まった気がする。
 住宅を造る時は、いつも「住む人に愛着心が育つように!」と設計してきたから、「私の造った家に長く住み続けてくれる人が多い。」のだと思い込んでいる。