再見「ロングランエッセイ」の+と-

55:「 丘を造る 」  住宅雑誌リプラン70号(2005年10月1日)より一部転載

 オランダのデルフト工科大学の図書館は、ゆるやかな丘に埋まっているように見える。丘のまんなかには、図書館に光を入れるための円錐形の塔が建てられている。塔と屋上の間が離れていて隙間にガラスがはめ込まれており、そこから図書館のなかがのぞけるようになっていた。なかの天井は、丘の形に沿ってゆるやかに、広がり、まんなかには白い円錐形の壁が下がっていた。白い壁に反射しながら、末広がりの壁と天井の間から差し込む光が、図書館中央に明るさを与え、空間全体を優しい雰囲気にしている。ここでは環境を考えて屋上を緑化し、全体をコンパクトに造ることを心掛けながら、建築の新しい魅力を創り出している。
 いま、環境に優しい建築として、省エネルギー、屋上緑化、太陽熱利用を採用しようといわれ、新しく開発された設備をあわてて取り付けてお茶を濁すことが多いなかで、基本に立ち戻って、新しいものを造りだすことを考えることの大事さを教えてくれる建築だと思う。
 

+: モエレ沼公園にも、イサム・ノグチの造った丘がある。ゴミ処理場だった所を活用しようと計画した折に、彫刻家イサム・ノグチに、全体の構想と計画を依頼することになったという。平坦な200ヘクタールの広さに比べると僅か20メートルの高さの丘を造っている。他に、その計画敷地の中心施設として、10メートルを超える鋭角的なガラス張りの施設が建っているのが、少し腑に落ちない。イサム・ノグチは、ガラス張りにしたら、存在感が薄れるとか、あるいは見えないとか、考えないと思った。別の低い丘の上にイサム・ノグチの基本計画になかった太さ2メートルのステンレスパイプのオブジェが、設置されたという理由も知りたいと思う。近頃は、最近の建築が、ますます研ぎ澄まされてき?鋭い切れ味に痛みを感じるようになり、温かみのある形態に、安心感を覚えているが、こちらの心の余裕が無くなってきたのだろうか?