飯田善彦氏【総評】

〈 北海道建築大賞総評 〉
今回の審査を通して何よりも感心したのは、住宅が賞の対象になっていたこともあるが、どの応募案も冬季の温熱環境に関して十分な対応がなされていたことである。断熱、気密、換気、暖房の仕組みを、Q値、C値を挙げて説明することが当たり前であり、雪対策も含めて冬季の住環境に対する意識の高さに、審査する僕自身の勉強不足を痛感する場面が多々あった。中学、高校と札幌で過ごした経験から北海道の冬の厳しさはよくわかっているし、当時の住宅や石炭ストーブを知っている身にとって住宅性能の進化は実に驚異的に映る。JIA北海道の建築家たちは口を揃えて、すでに冬季の対策は確率したという、その根拠がこれだけ出揃うと確かに納得してしまう。ただ、一方で、この水準から見ると随分いい加減に見えるであろう僕たちが考える住宅、街に関係する、とか周辺に開く、とか自然を取り込むとか、なるべく住宅といえども内外がクッキリしない様相、あるいは家族、仕事など変化する社会要素を元にした組み立て、技術、素材の多様性、等々住宅という概念に果敢に切り込む姿勢、の様なものをどんな風に考えているのだろう、と少しシニカルに思ってしまう。もちろん、北海道で温熱環境を無視すれば生死に関わる、あるいは健康を損ねる、ことは当然理解した上で、だからといってその閉じた快適さを超えるチカラを見たいと思ってしまう。それは、冬の厳しさと同時に夏の素晴らしさを知っているから余計に感じるのかもしれない。夏は窓を開ければいいじゃない、ということの先、デザインが先導しないとたどり着けない世界、あるいは北海道じゃなければ実現できない世界に期待してしまう、ことも確かなのだ。
今回受賞した住宅は、その世界を垣間見せてくれる、これからの北海道の住宅の可能性が間違いなく実現している住宅である。
北海道の各地に点在する住宅を巡りながら色々なことを考えさせられた。厳しい自然から身を守るための多くの工夫が実現していることも目にした。だけどまだ納得していない。もっと伸びやかな、もっと原理的な、もっと突出した、北海道でしかできない、自然に寄り添うような、あるいは自然をあざ笑うような、建築を見たいと心から願っている。

〈 北海道建築大賞 〉ときわの家 鈴木 理
交通量の多い幹線道路と、渓流を抱く線状の斜面に群生する見事な樹林に挟まれた敷地に、周囲を反映しつつ小さく分節された片流れ屋根ユニットが連繋する集落のような住宅である。よく見ると住居を構成する一群とスタジオ、オフィスを構成する一群が隣り合って混成しているが、少しずつ角度を変えて配された、微妙にサイズも断面も異なる閉じたユニット、目指す樹木を眼前に捉えたユニット間の開いたコモンスペース、騒音をバリアーするサービスユニットが一体化して展開する様子は実に心地よいリズムを刻み、論理と美学が絶妙にマッチした魅力的な風景を作り出している。大胆な構成と隅々までデザインされた細部は寒冷地であることを忘れさせるほど自由であり、建築家の力量とセンスを十分に感じさせる。ただ感心する一方、この整い方を捨て、ここに止まらずもっと過激にジャンプしてほしい、とも思ってしまう。これからの仕事に更に期待したい。

〈 審査員特別賞賞 〉S h i m o k a w a B l a n c  小倉寛征
道北、下川町に建つ、地元産材を使い地元施工者と協働する「森とイエ」プロジェクト最初の住宅である。夏冬の温度差60°にもなる過酷な自然の中、伸びやかで快適な環境が実現している。かつて北側に線路があり、廃線後も残された防風林に向かってU字型にとられた平面、車庫、サービス、寝室群を両ウィングにまとめ中庭を通して防風林に向かうリビングダイニング、全てが美しくデザインされ、換気暖房システムも無落雪屋根も断熱も理路整然として申し分ない。ただどうしてもU字型の内側に大きくとられた中庭が、リビングから大きな窓で繋がるとはいえ、生活のアクティビティにいまひとつ積極的に参加していない印象が残る。一瞬とはいえ清涼な夏の空気にも向かう建築のありようも探してほしい。北の大地ならではのこれからの取り組みが楽しみである。

〈 奨励賞 〉H o u s e i n s h i n k a w a  高木貴間
左記の文脈の上で、最も挑戦的に感じられたのがこの住宅である。小住宅、ローコストでありながら、主屋の1/2を占める、一体的な屋根、半透明の壁に囲われた半屋外空間が何よりも魅力的である。新しい言語が生まれている、と感じた。1.8mグリッドに柱を立て、それらが支える低い切妻の下に多くの工夫を重ねている。全体の中央に置かれた水周りを回遊するように小さな場所が連続し、中二階の個室を含めて小さな空間の集密はむしろ身体に心地よい。室内の温熱環境は、半屋外空間と一旦切れるが、熱フローのプロセスにこの半屋外をうまくセットでき、長い冬の生活にもっと参加できる工夫があればさらに快適で多様な環境が実現できたのではないか、と勝手に考えてしまう。何か閉鎖性を突破していく想像にかられる住宅である。

小篠隆生氏【総評】

〈 北海道建築大賞総評 〉
新しく創設されたこの建築賞の審査は、今回は住宅作品に限定されたものであったが、今後、応募の対象が一般建築に展開して場合も見据えて審査の方向性を定めることに注力した。
北海道の建築の設計理論が北海道の気候条件によって影響を受け、日本の中でも特徴的な経路を歩んできた軸線上に現在の建築家たちの思考のバリエーションが展開していることが、応募された27作品から如実に感じられた。その中で、審査にあっては、培ってきた技術を活かしながらも、新しい価値観をどのように創造しているかを重視した。
豊かな暮らしとそれを支える建築(住宅)は、地域で培われた確かな技術に裏打ちされた建築であるとともに、それが感性に訴える空間であるか、そして、今回は住宅作品が対象ではあったが、その建築(住宅)が立地する地域に対して社会性を持つものであるか、それに建築家としてどのようにコミットできているのかという4つの観点から成り立っている。
今回の受賞作品はこれらが実現できた作品ということになる。

〈 北海道建築大賞 〉ときわの家 鈴木 理
通行量の激しい国道から住宅の中に入るとその喧噪を消え失せ、真駒内川の河畔林に開いた開口部からは、その環境と一体になった生活空間がドラマチックに展開する。そうした環境への呼応のために、適切な環境技術を用いているのと同時に、生活空間、仕事空間、アトリエといった異なる機能を組み合わせた構成は、北海道という環境の中の1つの集落のようにも感じられ、建築と環境との豊かな関係を創り出している。それらのすべてにおける総合的なバランスと卓越したデザインは、高く評価でき、大賞に相応しい作品である。

〈 審査員特別賞賞 〉S h i m o k a w a B l a n c  小倉寛征
下川町という北海道の中でも特に気象条件が厳しい地域で、快適にかつ豊かな暮らしを実現するためには、巧みな環境技術の利用だけでなく、地域で算出する豊富な木材を適切に利用すること、地域の風景として残された鉄道防風林を取り込むことなど、気象も含んだ地域も持つ資源を活かすことが必要であるという建築家の明確な志向が感じられる。同時に、住宅という建築の生産を地域の力を活かして行っていくシステムづくりにも注力している建築家としての姿勢は今後の地域における建築家の役割を体現するものとして評価できる。

〈 奨励賞 〉H o u s e i n s h i n k a w a  高木貴間
既成市街地の一般的で特徴がない敷地、予算など限定される条件の中で、施主が思い描く豊かな暮らしとして何が実現できるのかを徹底的に考えてつくられた意欲作である。定尺のモデュールを用いつつ、断面的には開放的であるために取られた吹き抜けや、断熱的には外部でありながら、そこに生活の一部をはみ出させ、閉鎖的な北海道の建築に対するアンチテーゼのメッセージを盛り込んだ。環境技術重視型の建築が定式化する中で、捨て去れてしまう部分を何とかできないかという意欲がこれからを期待させる。

磯 達雄氏【総評】

〈 北海道建築大賞総評 〉
今回、北海道の住宅建築をまとめて訪れる機会を得て、総じて感じたのは、 設計において高度なレベルでせめぎあいが見られることだった。例えば開 口部の大きさについては、断熱性を高めて寒さを防ぐには窓を小さくすべ きだが、外の美しい風景を内部にいて楽しむにはできるだけ大きくしたい。 前者で求めるのが快適だとすれば、後者で求めているのは快楽と言える。 快適か快楽か。相反する要求に対して、二次審査まで残った住宅はいずれ も、片方をあきらめるのではなく、双方をギリギリまで追求していた。その 二項対立の乗り越え方において、僅差ではあったが秀れていると思われる 解法を示した作品を、入賞作として選んだ。その意味で、最終段階で惜しく も選外となった「木々と共にくらす家」は、放射による温熱環境の制御を採 用することで、二項対立自体の解消を目指したものであり、個人的には入賞 に値する作品として強く推したことを付記しておく。

〈 北海道建築大賞 〉ときわの家 鈴木 理
小さく分割したボリュームを、角度を微妙に変えながらつないでいった構成。交通量の多い前面道路側には窓をほとんど設けていないが、外観に閉鎖的な感じはなく、背景の森とよくなじんでいる。内部には床レベルや天井高さが異なる様々な空間があり、環境性能や内装の仕上げも様々。要求される機能に応じている。その中でも、ガラス越しに外の自然を間近で体感できるダイニングルームは、忘れがたい印象を残す。大賞にふさわしい作品だ。

〈 審査員特別賞賞 〉S h i m o k a w a B l a n c  小倉寛征
市街のエッジに位置する、文脈が不明瞭な敷地において、設計者はわずかに残っていた鉄道防風林を景観上の資産ととらえ、コの字形プランの住宅と合わせて囲い地を形成するようにした。これによりリビングルームから中庭を介して見る景色は、額縁に入れられた絵画のように美しい。北海道内でも特に厳しい寒冷地で、断熱・気密の性能を十分に達成しながらも、風景の楽しみを居住者にもたらすことに成功した住宅として、高く評価した。

〈 奨励賞 〉H o u s e i n s h i n k a w a  高木貴間
良好な温熱環境を確保しようとすると、建物の内外は分断されていきがちだ。しかしこの住宅では半屋外のテラスを設けることにより、生活を滑らかに外へと広げている。内外の連続感を高めているのがグリッド状の柱梁で、図面で見た時には邪魔な感じがしないかと心配だったが、実際に訪れると杞憂であった。むしろこれが建築的な秩序を保つことで、日常的なモノが増えていくにつれ魅力を増す空間になっている。そうした点を称えたい。

現地審査にあたって

第1回JIA北海道建築大賞の審査員は、2017年6月3日・4日の2日間にわたって、2次審査を通過した全6作品の現地審査にあたりました。

「掘立柱の家」
支柱となる荒々しい丸太と繊細な木部が際立つ。サービススペース、水周り、大きなリビングダイニング、寝室群とずれながら重なる断面は新鮮で心地よいし反射しつつ全体に廻る外光も美しい。ただ丸太の意味がもっと全体に参加し、より強いストーリーが奏でられたらなあ、とちょっと残念に思った。(審査委員長 / 飯田善彦)

「木々と共に暮らす家」
素晴らしい樹林を前に斜面に建てられている。2階にサービスが集められ半階下がって少し振られたリビングがありさらに下がって寝室群がある、その構成も素材も説得力がある。樹林を環境要素として組み込む思考も素晴らしい。ただ、テラス、階段、といった構成言語がもっと明確にデザインされてもいいのではないか?変化することを主軸に据え、はっきり分節する方が意図がはっきりしたのではないか、と感じた。(審査委員長 / 飯田善彦)

「木骨ブロック造の家」
帯広を特徴付ける斜めの緑道と碁盤目道路に挟まれた大きな敷地に建つ伸びやかな家である。変則的な敷地形状を逆手にコモンとプライベートが連続しつつ領域を分けている。木骨ブロックという特殊な手法の意味は現地に行きよくわかったが、その申し分のない建築に、何よりも建築家自身が満足しているのか?がとても気になった。極めて抑制され整えられた輪郭から、ブロックも木造も建具も何もかももっと突き破り増殖し変形に向かう欲求、を妄想してしまう。本当にそうなのか、はわからないけれど、もっと強く荒々しい想像を特に繊細なブロックを見ていて勝手に膨らましてしまう。原野に立つ建築はどんなに魅力的なのだろう。 (審査委員長 / 飯田善彦)

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